第5回 北海道の食を語る講演会と食のフォーラム (その1)

今年で5回目となる「食を語る講演とフォーラム」(主催:株式会社 アンジュ・ド・フロマージュ、後援:黒松内町)。例年は秋口に行われるのですが、今回は夏~初秋の農繁期を外そうと6月の開催にトライしました(実は6月のこの時期も、農家さんは牧草の一番草を刈るのに忙しいそうで、なかなか難しいですね)。
西村聖子さんのご挨拶は毎回感謝の言葉で始まりますが、加えて今年は節目の年だそう。会場にもなったチーズ工房併設の建物について指定管理契約を無事更新し、今後も5年と言わず末永く黒松内町のこの地で頑張って参ります、という嬉しい報告が添えられました。

佐藤雅彦 副町長のご挨拶も2013年の開業当時を思い出し、「(アンジュは)後志管内(”○○管内”というのは、広い北海道を分ける行政区分なのです)で最も多くの原料乳を使うチーズ工房です」と実績に触れておられました。

いつもの通り、プログラムの前半は二つのご講演。後半はパネルトークです。一人目の講師は医療法人萬田記念病院院長・萬田直紀先生です。西村さんとはご近所でお子様同士をご縁に長いおつきあいだそう。人のご縁を町につないでいけたらと願う西村さんに招かれる講師陣は、食だけに限らずいつも多彩です。

 

萬田直紀さん

公益財団法人萬田記念財団理事長、社会福祉法人札肢会理事長。糖尿病治療の国内トップランナーであるだけでなく、札幌交響楽団理事など、医療以外の広い分野でも地域貢献を行うドクター。

 

「食べて動く」で健康寿命を伸ばそう

糖尿病治療の国内第一人者であり、札幌で今年60周年を迎えた札幌テレビ塔そばの同院の三代目院長。さらに社会福祉法人と公益財団法人のトップを務め、医療福祉だけでなく音楽やアートの分野でも地域貢献をなさる萬田先生。実は、創成川公園に設置された彫刻家・安田侃氏の大型作品も萬田先生の寄贈だそうです。その語りは軽妙でユーモアにあふれ、会場に慢性病への最新の考え方や予防医学の大切さをしっかりと印象づけられました。

今日のテーマは「食べて長生き、健康寿命」。病院概要のご紹介と11月14日の「世界糖尿病デー」のご紹介から、話題は食と慢性病の関係にうつります。データによれば男性は40歳代で肥満増加率がピークに達し、それが将来の病気につながること(逆に女性は20~30歳代の痩せすぎが課題だそう)。一方、肥満対策だけを捉えた食事療法(ダイエット)は、実際のデータ(国民栄養調査)と矛盾しているのだそうです。炭水化物を摂らない極端なダイエットが流行していますが、実際の摂取カロリーはむしろ減少傾向です。食品群別の摂取量はごはん、パン(炭水化物)と野菜が食べ過ぎどころか減っており、脂肪、肉、塩分が増えている。果物も、40~50歳代以下は極端に不足しています。所要量に対するアンバランスを助長するダイエットは、健康のためになりませんね。先生は実践として、「600kcal・塩分3以内」のコースメニューを監修され、札幌グランドホテル1階のカジュアルレストラン「BIG JUG」が月替りのランチで提供して月1000食の利用があるそうです。

 

さて日本人の糖尿病は1980年代、ちょうどバブル期に急増しました。(そもそも糖尿病はインスリンが作られない先天性のタイプと、インスリンが作られるのに効果的に働かないタイプに大別されますが、今回は後者=生活習慣病としての糖尿病に限ったお話です。)エネルギー摂取量、たんぱく質は減っている。脂質も一時増加したがその後減っている。つまり、糖尿病の原因は「食べ過ぎ」ではないのです!
では一体、何が背景にあるのか。グラフがぴったり重なったのは、自動車の台数の増加でした。つまり運動不足が要因と考えられないでしょうか。「男性の持病」と言われる通り、糖尿病は圧倒的に男性に多い病気です。50歳前後で男性の糖尿病率は倍増し、70歳代の5人に一人は糖尿病。「多くの糖尿病は老人病」と言われるそうです。(女性については60歳以上で増えています。)そうしたケースでの主な理由は「運動不足」だと考えられます。

近年、脳溢血や心筋梗塞などの検査法・治療法は飛躍的にに進歩し、これにより平均寿命も伸びてきました。しかし大切なのは、平均寿命だけでなく健康寿命(普段通りの生活ができる身体の状態)です。一般に、健康寿命は平均寿命マイナス10歳と言われます。その差は5つの原因で生まれます。①高血圧 ②糖尿病 ③コレステロール・中性脂肪の高い状態 ④喫煙 ⑤内臓脂肪(目安はウエストサイズが男性85cm、女性90cm以上)。この5つが健康寿命を短くする要因です。健康寿命は、死ぬまで元気で生きていくこと。自分でトイレに行ける身体であることとも言えます。寿命よりも健康寿命、これが何よりも大切です。

私のまとめは、血糖、体重、血圧、コレステロール、中性脂肪、これらを適正に維持することで、合併症になりません。合併症にならなければ、健康寿命が保たれるということになります。

健康を守るために避けるべきは、不規則な食事(食事を抜く、就寝前に食べるのはメタボの原因。食べるのは寝る2時間前まで)。ドカ食い、早食い(噛めば噛むほど血糖値は下がる。歯の健康は重要)。スポーツドリンクを飲みすぎない(30kcal/100mlまでは「カロリーゼロ」と表示できることを知っていますか?)、運動を一度に頑張りすぎない(1万歩にこだわらないで、食後に千歩ずつなど小分けにするのがコツ)、体重を測ること、血糖値を毎日測ること(測るから病気が見つかる?いいえ、測ることで値を気にかけ、改善するのです)。
「食べて運動して健康寿命を伸ばそう」を覚えておいてください。

 

会場とのQ&A)

*薬の副作用についてメディアで過激に取り上げているが、本当はどうなのでしょう?
―副作用のリスクは厚労省HPにも明記されているのに、雑誌を売るために新しい事実のように書くのだと捉えています。

*ベジタリアンの食生活については、栄養バランス上いかがでしょうか?
―「しっかりバランス良く食べて運動する」ことを考えていただきたいです。菜食主義の方もたんぱく質を補うために大豆などを重視しています。たんぱく質が不足し続けると問題なのは、筋肉が作られなくなることです。「サルコペニア」といって筋肉がやせ細り、歩行や運動ができなくなってしまい生命に関わります。バランスが大切です。

*仕事上、お菓子をつくるのですが、お砂糖をたくさん使います。どうつきあったらよいでしょう?
―私が糖尿病の栄養指導をする場合、「ケーキを食べてはいけない」とは言いいません。「分食」(分けて食べる)がポイントで、食後にすぐ続けて食べるのは避けましょう。昔から言う「10時のおやつ、3時のおやつ」です。例えば私は10時に牛乳、3時に果物をつまみます。そして食べすぎず量を決めて、食べたら横にならずに運動をしましょう。ケーキを売るときに運動も勧めてはいかがでしょう(笑)

(小休憩には札幌「バンドカフェ」の高坂美子さんから中国茶のご提供がありました。)

◆アートは難しくない、人の心の動きを起こすもの
お二人目の講師は、アーティストの斉藤幹雄さんです。

が、その前にもうおひとり、興味深いゲストが案内役になって下さいました!
インディペンデントキュレーターの高畠みゆきさんです。

キュレーターとは、多様な情報を選び出しまとめあげ、新しい視点を示す役割のこと。アートの世界では新人発掘などの意味合いもあります。高畠さんは、札幌・大通のギャラリー「CAI02」を拠点に、まだ発掘されていない現代美術アーティストの方達の展覧会を企画しています。音楽とアートが好きで、海外に旅するにも美術館のそばにホテルを選ぶほどだった高畠さんは、95年にウイーンに旅をし、グスタフ・クリムトの作品《ベートーヴェン・フリース》(ベートーヴェンの第九交響曲へのオマージュとして生まれた大壁画)を見るためにセセッション(分離派館)を訪れます。その会場では、当時多数の難民を生んでいだボスニア紛争についてのアートの制作過程が「展示」されていました。街のあちこちに難民の姿がある状況で、その作品誕生の過程を見たことで、「現代アートはわたしに直接かかわること、必要なことなのだ」と強く感じたそう。昔からある作品に対して美しいと感じることも素敵だけれど、現代アートは「それを今、目の前でつくりあげる人がいて、そこに立ち会うことができる」、その稀有な素晴らしさに気付かされたと言います。

「斉藤幹雄さんの作品には、温かなお人柄とともに、世界中の紛争や問題へのメッセージをこめている、メッセージ性の強さを感じました。
斉藤さんの作品に触れていくうちに気づいたのですが、この画調は子供の頃のまま。わかりやすいようでいて奥の深い独特の世界観。じっと見ていると自分がニュートラルな気持ちになれて、どこか夢の記憶に引っかかってくるような作風なのです。
現代美術の醍醐味のひとつは、作家と直に会えることです。どうぞ斉藤さんのお話を直にお聞きになってください。」

<その2に続く>